人口減少時代を迎え、また、高コストによる生産拠点の海外移転などにより、もはや日本は組立加工業だけで勝ち残れる時代ではなくなってしまっている。 今後強くなってくるのは、明らかにソフト産業やコンテンツ産業と呼ばれる分野のほうである。
ゲームやアニメといったものがその代表例であるが、例えば組立加工業の代表であった自動車にしても、その内部には多くの複雑なソフトが組み込まれているし、性能にそれほど差がなくなった以上、使い勝手やデザインといった側面がより重視されるようになっている。 最近、デザイン家具を意識したような、インテリアにこだわった自動車が出ているが、これはもう感性の世界に属すること。
こういった「使いごこち」「デザイン」といったものは、規律遵守が絶対の価値観であり、苦しむことこそ努力の証しです、という文化からは生まれようがない。 やはりそうなると、「楽しむ」ということに関して一日の長があるイタリア人などに、デザイン面でなかなか勝てないのも無理はないことなのだろう。
この動きは、日本のあらゆる分野で見受けられる。 マニュアルの代表的な業界と思われている小売業でも、例えばRは「ナチュラルローソン」など規格外の店舗を次々出しているし、Sは店舗の規格化を進める一方で、販売方法に関しては各店舗に大きな裁量権を持たせており、その結果さまざまなユニークな販売方法が生み出され、その成功例が今度は全国に広がるという好循環を達成している。

Sでは常に「仮説を出せ」ということを言われるというが、マニュアル一辺倒の凡百の小売業では考えられなかったことだ。 かつての日本なら、みんなと同じことを間違いなくやる、ということで成功することができた。
つまり定石としてガチガチに決まっていることを、ヌケ・モレがないようにやることが重要だったわけだ。 経営知識だけで勝とうというのもこれと同じで、だからこそ知識にヌケ・モレがあったらいけないとばかり、みな必死に勉強するわけだが、これがいかに古い考え方かということはよくおわかりいただけるだろう。
ただ、誤解してほしくないのは、自由だけでもダメだということ。 これはコミュニケーション論のところでも述べたが、自由の意味を履き違え、規律がまったくない会社というのは長続きしない。
以前、「モチベーション」ということがもてはやされた時代に、そこにばかり注力する会社が現れたが、やはり業績は芳しくなかった。 クリエイティブなことをやらせようとしたら、違う意味でのルールが必要になるのだ。
箸の上げ下げまで管理するというのではなく、これだけは守ってねという、高いレベルの規律がいるわけだ。 自由と規律という議論をすると、これを二律背反、シーソーのように、どちらかのレベルが上がれば、どちらかが下がる、と取る人がいる。
これでは、いつまでたっても、進歩がない。 シーソーではなく、下駄のような形を思い浮かべてもらいたい。
前の歯が高くなる(自由という要素が従来より強く出る)ことをやれば、後ろの歯も同じ高さまで伸ばさなければならない(規律ももう一段進化させる)。 片方を伸ばせば、それに合わせて他方も伸ばさなければ、バランスが狂ってしまい、とても履いて歩けない下駄になってしまう。
企業の場合、新たなステージに進化していくためには、自由と規律、それぞれが新しいしベルに高まっていくことが必要なのだ。 こういった具合に、あくまで自由と規律はバランスをとりながら伸ばしていく必要がある。

ただし、日本の場合、感覚的には、今まで「自由(楽しむ)3規律(苦しむ)7」ぐらいだったのを、逆の7対3にするくらいでちょうどよい。 国全体として、楽しみを軸にし、楽しみながら努力するという感覚が求められている。
もちろん、業種によってその比率も違ってくるだろうが、これからは組立加工業の会社に入ったのにクリエイティビティを強く求められたり、小売業でマニュアルを与えられながらもマニュアル以上の仕事を求められたりする時代だと言えるだろう。 こう考えたとき、それでもあなたは苦しみながら勉強を続けていこうと思うだろうか?これから力を伸ばしていきたい人は、「自由」の部分にフォーカスして力を伸ばしていくべきなのだ。
そしてそのためには、「楽しむ」ということに対して積極的であったほうがいい。 近年、このような組織のありかたの変化について、「オーケストラ型からジャズコンボ型へ」「アメリカンフットボール型ではなくサッカー型」など、いろいろな表現で語られているが、すべてに共通する要素は、自分がその場で判断する要素が多くなる、ということだ。
オーケストラのように各パートが指揮者の意図を汲み取り、その色に染まるのではなく、ジャズのように各自がアドリブを効かせることが大事になる、ということだ。 本当は自由と規律のどちらも大事、でも感覚的に言えば、自由のほうに振れていくということである。
今まで、「楽しむ」ということがいかに大事か、について述べてきた。 だが、そんなことを言うまでもなく、人間、楽しいほうがいいに決まっている。
そしてその結果、勉強もはかどり、しかも評価も得られるのだったら、楽しまないほうが損。 ということで、ここからはいかに「ビジネスライフを楽しむか」ということについて、そのティップスをお伝えすることにしよう。
「勉強」という言葉をあまり使いたくないのだが、やはりミニマムの知識を身につけることは必要になる。 前にも述べたように、リーダーの要件は掛け算で表される。

いくら「使う力」があっても、知識ゼロではすべてゼロのままだ。 もちろんMBAオタクのような、経営知識を持っているだけで「使う力」がゼロの人も同様だ。
そもそも、物事を勉強するということには、三つの段階がある。 まず、「気づく」ということだが、そもそも自分はどの能力を高める必要があるのかを「気づく」ということである。
目指す到達点を明確にしないと力は伸びない、という一貫したテーマは、ここでももちろん有効である。 先ほどお話ししたスパイダーチャートなどを用いて、自分に何が欠けているのかを検証してみるといい。
それぞれについて、まずは点数をつけてみる。 つけ方は勝手でいい。
一○点満点で、例えば経営知識は八点、人間力は七点、それに対して業界知識は三点しかないなど。 自分はどこにギャップが大きいかということを、まず気づいてみることから始める人間にはそれぞれ個性があり、それぞれのキャラは立っているほうがいいのだが、それもすべてミニマムの知識を得た上で、どこをさらに伸ばすのか、ということになるのだ。
私自身の場合、これも日本航空に勤めていたとき、経営企画部門に配属されてから、自分の足りない部分について、明確に意識するようになった。 私は文学部卒で、大学時代もバンドばかりやっていたので、経営企画に必要な基本的知識や能力が全然足りない。
会社の中でいろいろな部門を回るうちに、そこそこの知識は身についてきていたが、原価計算に基づいた事業計画作りやマーケティングといった分野については、まったくの素人だった。 周囲には、財務の専門家もいれば、お役所と政策論議で丁々発止やりとりできる人もいる。


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